馬鹿の世界の点景になりたい。

qinggengcai

仮題、空飛ぶクジラ 18


「いらっしゃいませ」
 花の声がした。
 安曇と洋は、花に見つからないように、店の入口にしゃがみ込んで、茶番が始まるのを待っている。
「こんにちは」
 花と目が合って、侑は、花の顔をよく憶えていないことに気がついた。
 いつも思い出そうとして、うまくいかないまま、分からなくなってしまう。
 例えば、ここではないどこかなら、侑は花を見逃しただろう。
 例えば、人ごみに紛れたら、侑は花を探せないだろう。
「こんにちは」
 花が挨拶を返した。
「え~と…」
 普通に、とりとめのない会話をすればいい。
 しかし、現状において普通とは、商品の名称を告げることだ。
「今日は…」
 商品名以外の発言は、ひとつ残らず普通ではない。
「今日は、チキン南蛮弁当をください」
「はい」
 どのみち普通ではないのなら、安曇に教えてもらった台詞を言ってみようか。
「でも、今日は…」
「ん?」
「大盛りで」
「はい」


「駄目だね」
 安曇は、立ち上がった。
「帰るね。洋、またね」
 洋は、小さく手を振った。
「おれも帰る、安曇、ごめんね、またね」


「10分ほどお時間よろしいですか~?」
「はい」
 侑は、調理場でチキン南蛮を揚げる花の横顔を眺めた。
 こんなのでも、恋なのだろうか。
 今日は、うつむいた花の横顔は、頬が丸く見えることを知った。



  1. 2015年09月08日 21:46 |
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2

コメント

青梗菜さん、こんにちは!!^^

花さんはとても、はきはきしていて、感じのいい娘だと想像しました。
「顔」って、簡単に思い出せるものではない気がします。
私なんか、嫁さんの顔ですら、で、イメージ(?)ぐらいです。
単位はわかりませんが、恋に大小があるならば、幅は広いと思いました。m(__;m
  1. 2015/09/10(木) 12:33:24 |
  2. URL |
  3. くわがたお #-
  4. [ 編集 ]

がたおさん、こんにちは。

>「顔」って、簡単に思い出せるものではない気がします。
>私なんか、嫁さんの顔ですら、で、イメージ(?)ぐらいです。
分かります、分かります、同意します。
つまり、イメージが重要で、ディテールはどうでもいいのですよ~。
少々髪を切ったくらいでは、気づきもしませんw。
自分の髪型や服装でさえ、どうでもいいくらいなので。
  1. 2015/09/10(木) 21:56:32 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック URL
http://qinggengcai.blog2.fc2.com/tb.php/978-559eac64
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)