馬鹿の世界の点景になりたい。

qinggengcai

雨は1000年降り続き


雨は1000年降り続き、
全球を覆った。

風が吹いて海を流した、
波を起こした。

陸地はまだない、
まだ要らない。



        H2Oとその同位体、
        僕たちの身体のおよそ6割が水で占められる。
        脂肪組織を除いた体成分での水の含有率は、7割を上回る。
        水晶体の66%、網膜の92%、脳の75%は水からできている。
        僕たちは、水で集めて、水に映して、水で見る。



    波は絶え間なく打ち寄せる。
    しかし、それはどこからも来ないし、
    どこにも帰らない。
    波は成因により、風による風波、潮の干満による潮汐波、
    地震による津波などに分けられるが、
    いずれも海面の振幅が伝えられるだけで、
    海水は移動していない。

    対して、海流は海水そのものが移動する。
    日本近海の黒潮に乗った海水は、
    地球を縦横に駆け巡り、
    やがて北大西洋で深海に沈みこむ。
    2000年の後、再び太平洋に浮かび上がるまで。



        生殖と代謝を行なうものを生命と呼ぶのなら、
        それは海から生まれた、らしい。

        化学は世界を元素の構成として説明する。
        僕たちの身体を構成する元素は、含有量の多い順から、
        H、O、C、N、Ca、P、S、Na、K、Cl、…。
        海水のそれは、多い順から、
        H、O、Cl、Na、Mg、S、Ca、K、C、N、…。
        地球の表層のそれは、多い順から、
        O、Si、H、Al、Na、Ca、Fe、Mg、K、Ti、…。

        海水の元素の組成と、
        僕たちの身体を構成している元素の組成が酷似することは、
        生命が海で誕生したことを示唆している。



        羊水の成分は、原始の海のそれに似る。
        単細胞よりもいくらか複雑な、
        二細胞体の精子と卵子の結合をもって人は始まる。
        個体発生は系統発生を繰り返す。
        受精後約30日を過ぎた人の胚子は、
        1億年を費やした脊椎動物の上陸を、
        わずか1週間で再現する。
        胚子の顔は古代魚類の胚子、
        蛙の早期の胚子と解剖学的に類似した形態を呈する。
        爬虫類、原始哺乳類へ様相が移り変わり、
        40日目に、やっと人らしい顔立ちになる。

        胎児の心臓の構造は、
        初めは成魚と同様の配列をした3つの腔を有していて、
        その後第4腔が分化する。
        第6週まで、胎児には尻尾があるが、
        次の2週で徐々に失われる。



    水は循環する。
    滞留時間は、土壌に含まれる水は51日、
    河川は13日、大気中の水蒸気は10日。

    海水は3000年かけて、
    そのほとんどすべてが入れ替わる。
    氷河や両極の氷は10000年。

    海水の総量は135000兆m3、
    その3000分の1にあたる445兆m3と、
    陸地から蒸発した71兆m3が1年間の雨になる。



    海の平均水深は約3800m、
    海域にもよるが、
    太陽光が届き植物プランクトンが光合成を行うことができるのは、
    水深200mまでと考えられている。
    この水深より浅い領域を表層といい、
    深い領域を中・深層という。
    それは、地球上で最大の生態系の存在域といえる。

    中・深層域に棲む生物は、
    ようやくその実態が知られはじめたばかりだが、
    大部分が海月(くらげ)の類だ。

    海月の身体の98%が水で占められる。
    海洋は地球の表面積の70%を占め、
    中・深層は全海洋の90%以上を占めている。



    僕たちは、かつて、
    魚で、蛙で、蜥蜴(とかげ)だった。
    つい先日まで、
    海で、土で、川で、空で、雨で、
    海月だった。



やがて陸地が現れ、
森が作られ、
3億7000万年前、
脊椎動物は空に架かる虹を見る。

僕たちが見る虹と、
何も変わらない虹を見る。

それがうれしい。







  1. 2013年04月03日 07:31 |
  2. 未分類
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:8

コメント

高校時代に、化学の教師で、Hが全ての元素の元だから、担任は何時もH組にするという教師がいました。
そう、僕たちの体は生命の記憶を残してるんですよね、お腹の中で、魚のように、爬虫類のようになるという。
僕たちの体の中に生命何億年かの歴史がつまっている。
進化の頂点と言っているけど、まだ進化する余地はないか、超人の誕生だ。
超人は、空も飛べるし、何百年も生きる。そんなことを夢想する。
  1. 2013/04/04(木) 03:24:31 |
  2. URL |
  3. oki #-
  4. [ 編集 ]

恐竜が栄えた期間は1億数千万年、
人が高い知能を備えたのは、たかだか4~5万年前、
夢うつつで生活していますが、
あとどれくらい続くものやら。

地球は、相変わらず植物と昆虫と海月の惑星で、
他は頼りない気がします。
とくに進化の頂点、人は弱っちょろいくせに、
いちびりすぎましたね。
人が何百年も生きるなら、
もう少し地球を大切にできたのかもしれません。
  1. 2013/04/04(木) 10:52:52 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

――イラク戦争に派遣されたとき、
とわたしは自分のブログで書きました。
でも、わたしはイラク戦争には行っていません。
小説を書いているのなら、それほど気にならなかったかもしれませんが、ブログの記事だったので、この文章の虚構性、政治性に敏感になってしまい違和感を覚えました。

〉雨は1000年降り続き、
〉全球を覆った。

雨が降り続くのを自分は見ていない。
しかも千年降り続き、全球を覆った、と断定している。
もちろん、どこにでもある見過ごそうとすれば見過ごせる表現です。
イラク戦争に派遣された、と書く場合に較べれば、政治性は薄いわけですが、自分が体験していないことを断定する書き方をどう考えますか?
そういうことは書けない、という人もいますよね。
わたしはあまり気にしません。
青梗菜さんはどうでしょう?
  1. 2013/04/05(金) 10:00:05 |
  2. URL |
  3. 瀧野信一 #-
  4. [ 編集 ]

> 雨は1000年降り続き、
> 全球を覆った。

実は、僕も引っかかったところで。
いかにも不正確ですから。
曇り時々雨よりも、降り続いたほうがかっこいいし、
800年ではだめです、1000年です。
千年降る雨なんて、とにかくめちゃくちゃかっこいい。

それが感傷的な比喩だったら、文字通りウェットに過ぎますが、
地球科学がドライにそう説明するのなら、そのまま頂戴しましょう、
神話っぽく、インドのほら話っぽく行っちゃいましょう、
と思った次第です。

千年降る雨の与件は、
自分が体験できないことが自明なので、
断定は気になりませんでした。
厳密に正しいことが保証される書き方ではありませんし、
たかがブログですし。

> イラク戦争に派遣されたとき、

反実仮想が混じったフィクションですが、
僕なら、調子に乗って、
母親になった日に、とか、獲物をくわえたペンギンの仔は、とか、
大きな嘘をついて、小さな嘘をごまかすのかもしれません。


どうやら、僕が書きたかったのは、
僕たちは、魚で、蛙で、蜥蜴で、海で、土で、川で、空で、雨で、海月だった、
それだけになりますが、
ほんとうに僕がそんなふうに思っているのかといえば、
困ったことにぜんぜん実感がありません。
でも、ほかにどんな落ちがあるのでしょう。
文章って、自分でも思ってもみない嘘をつかせませんか?
  1. 2013/04/05(金) 12:48:10 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

面白いねえ。
僕は、雨の話は神話と一緒の類だろうと考えてました。
要は反証可能か。
1000年降ったか、誰も確かめようがない。
それに対し、瀧野さんの、イラク戦争は確かめることができる。
カールポパーだな、反証可能。
懐かしい、浜井教授はポパーもやってた、世界3という考えがあるポパー。
  1. 2013/04/05(金) 22:33:29 |
  2. URL |
  3. oki #-
  4. [ 編集 ]

文章を(まあ、小説なわけですが)書いていると、遠くの嘘まで運ばれることがよくあります。
そこで、やらなければならないのは、適切な嘘かどうかを見極める、ということです。
その際、反証可能性ももちろん考慮に入れます。
そして、総合的に見て、面白いか、かっこいいか、を見て決めるわけですね。
更にジェンダーとか、帝国主義的言説、差別的言説などの政治的な虚構をどこまで許すかを判断します。
かっこいい嘘だからいいや、とはなかなかいかないのが実情です。
まあ、ブログは好きに書けばいいのでしょうけれども。
  1. 2013/04/06(土) 10:17:40 |
  2. URL |
  3. 瀧野信一 #-
  4. [ 編集 ]

ほんとうに行ったかもしれない。
だから、反証を挙げるだけの実質を伴っているのですよね。
月に降り立ったとき、空を飛べたとき、
そんなのは空想に決まってますけど、
イラク戦争は空想とは言い切れませんから。
  1. 2013/04/06(土) 10:30:58 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

瀧野さん、こんにちは。

そりゃもう、瀧野さんの小説は、お客さんに出すものですから。
僕のように、好きだけではやっていけないわけで。

ブログは、不完全なほうがおもしろいですね。
荒くても、ジャズのような即興性のほうが大切で、
出てしまった音はもう仕方がないし、
書いてしまったことも、いつかまた書き直せばいいし。

なんだか、僕がなにかを書くというよりも、
文章の作法が僕に書かせているような気になったもので。
無作法な僕にして。
  1. 2013/04/06(土) 12:53:57 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

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