私たちは、この音楽は好きだけれど
あの音楽は嫌い、
この学校に行きたいけれど
あの学校には行きたくない、
あの人とは結婚したくないけれど
この人とは結婚したい、などと
その都度自分で選んでいるようですが、
大きな視点に立てば、
私たちが「この音楽」や
「この学校」などに集められているわけです。
ですから、ハビトゥスは世界を
分類していくものであると同時に、
それによって行為者が
分類されていくものでもあります。
傾向性(dispositions)の体系としてのハビトゥスに
分類されることによって、
その人の位置(position)が確定され、
同じハビトゥスを持つ者たちの
集団(クラスター)ができていきます。
こうして似た者同士の集団がつくられることによって、
人びとは何者かに「なっていく」のです。
本人としては主体的に選び取っているつもりでも、
一歩引いて全体を眺めてみると、
共通のパターンが見えてくる。
そして、ある階層やクラスターに分類される。
…… 分類すると同時に、分類される。
それがハビトゥスという概念の
強力なところです。[p38-39]
―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
―― 岸政彦 著、2020、NHK出版

ハビトゥスとは何でしょうか。
それは、家庭や学校のなかでたたき込まれた
性向、態度、傾向性です。
つまりそれは、それまでの人生の履歴、
蓄積なのです。
私たちの態度や感情、そして身体には、
「履歴がある」のです。
それは行為のなかに蓄積された過去の履歴であり、
学習と訓練によって
長い時間をかけて獲得された
身体の記憶です。[p85]
身体の記憶は、一つだけだろうか。
つまり、ハビトゥスは一つだけだろうか。
僕は、老婆の節くれだった手の写真を見て、
美しいとも思うし、醜いとも思う。
ゆえに、どちらとも言えない、とも思うし、
答えられない、答えは一つではない、とも思う。
しかし、どれも、完全に自分と一致する答ではない。
いくつものコンテクストに足を取られて、
たくさんの選択肢の前で立ち止まり、
怒りや、疾(やま)しさや、優しさや、
さまざまな感情を抱えて迷い込む。
僕には、そんな態度や感情の履歴がある。
「おもひでぽろぽろ」のタエ子のいい子ぶりも分かるし、
ほかの女子たちの、分かりやすい嫌悪も分かる。
タエ子が考える理由も分かるし、
トシオが立てた推論も分かる。
誰の心も自分なりの論理を持っていて、
持っている論理だって、一つだけとは限らない。
それでも、何かを選択して、クラスターに分類され、
何者かになってきたんだと思う。
しかし、何者かになれば、似た者同士の集団で括られて、
過度に単純化されてもいいのだろうか。
僕の身体には、戸惑い、ためらい、迷った記憶が、
書き込まれているのではないのか。
履歴とは、選択の結果ではなく、
身体に刻まれた逡巡の痕跡ではないのか。
Put your troubles in a little pile, And I will sort them out for you
I'll fall in love with you, I think I'll marry you
―― Apple Blossom/The White Stripes
―― Jack White 作詞作曲、2000、Sympathy for the Record Industry
ブルデューは、私たちの行為だけでなく、
態度や能力、主観的な判断や評価、
無意識の感覚や身体所作までも、
社会や歴史によって規定され、
構築されたものとして捉えます。
それが彼にとっての「人間」の本質なのです。
この人間の本質を描くために
ブルデューが導入したのが、
「ハビトゥス」「界」「文化資本」
という独自の概念です。[p30]
続いて、「界(champ)」に進もう。
「ハビトゥス」に、「界」概念が絡まってくる。
テーマ:哲学/倫理学 - ジャンル:学問・文化・芸術
- 2021年02月27日 00:00 |
- 自分らしさ
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| コメント:10
戸惑っています。誠に戸惑っています。
うちの就労支援施設は、生活保護受けている人ばっか。
だからなかなかその施設から抜けられない。
こっちみたいに資本もある、学もあるとなると馴染めない。そこのハビトゥスに染まらない。
院長は、そういう汗水流して稼ぐ人の気持ちも分かれと僕をその一員にしたのだと思うし、施設としても、そういう風変わりなのがいても良いと思っているかもしれないが、まあ、自分のことを「私」、相手のことを「あなた」なんていうのは僕くらいだから、浮いてますよね。
もうそろそろ辞めどきかな。
しかし、あるハビトゥスを持った集団と、別のハビトゥスを持った集団が出会う〜優しさに満ちた駅の人と優しさを知らない駅の人は必ず電車が繋ぐように、そこに本当の人間の出会いというものがあるように思う。
異質な他者と出会わなければ、同じハビトゥスを持った人とずっと暮らしていれば、何の変化も起きないでしょうし、安心ではあるけど、こんな文明が発達した社会で、他者と出会わないことは不可能だ。
で、他者と出会ってどうする?排除する?理解しようとする?無視する?
- 2021/02/27(土) 00:14:38 |
- URL |
- oki #Jt4p.2jw
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okiさんは障害受容もちゃんとされてるし、
次のステージ、次の出会いへ行く時期なんじゃないかなと
思います
okiさんの人生劇場の舞台に誰をおくかは
選べると思うから
ここをベースキャンプの一つにしてたら
いいと思います
- 2021/02/27(土) 00:19:33 |
- URL |
- ランタナ #bAcQnUEc
- [ 編集 ]
ランタナさんありがとうございます。
やはりね、同じようなハビトゥスを持った人が少数はいるから、結局その集団の中でその人達と話すことになっちゃうんですよね。
収入があると、別の階に「利用料」を払いに行かないといけないのですが、見知った顔を見ると、お、あの人も!と嬉しくなったり。
しかし、今年は土地を売ったので、利用料が月3万いくらとなっちゃうはずなので、そんなの払いたくないから、6月には必然的にそこ辞めますよ。
それまでに職に就けるかなあ。
- 2021/02/27(土) 00:39:46 |
- URL |
- oki #ibS8y52A
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職場の関係は職場の関係でいいと思います。
ハビトゥスでつながって出会ったわけではないから。
私の職場ですが、
一応お互いをリスペクトして穏やかな職場環境を
作ってはいますが、退職してもずっとつながれる
関係か?というとそうではない気がするから、
これは「働く」という前提でつながってる関係で
ハビトゥス(ある程度は共有してるかもしれないけど)
までは求めがたいかもしれません。
違和感とか砂を噛む思いというのは
どこまでいってもゼロにはならないもんじゃないかと
思います。
私の場合は女性ということもありますが
紹介予定派遣を使うことで色々条件交渉は
事前に派遣会社がやってくれて楽でした。
試用期間後直接雇用に入るのですが。
採用のために無理な条件をつい飲んでしまいやすいので
そういう感じの事前に交渉してくれるサービスが
okiさんの周りであればいいのにな、と思います(^-^
- 2021/02/27(土) 00:57:00 |
- URL |
- ランタナ #bAcQnUEc
- [ 編集 ]
okiさん、こんにちは。
>しかし、あるハビトゥスを持った集団と、別のハビトゥスを持った集団が出会う〜優しさに満ちた駅の人と優しさを知らない駅の人は必ず電車が繋ぐように、そこに本当の人間の出会いというものがあるように思う。
>異質な他者と出会わなければ、同じハビトゥスを持った人とずっと暮らしていれば、何の変化も起きないでしょうし、安心ではあるけど、こんな文明が発達した社会で、他者と出会わないことは不可能だ。
>で、他者と出会ってどうする?排除する?理解しようとする?無視する?
異質な者に対して、極端に言うなら、
調和を図り、コミュニケーションを成り立たせようとするか、
差異化を指向して、排除、断絶に向かうか。
不愉快なことに対する耐性かな。
すぐに怒る人はだめ。
調和を目指していても、一気に指向を反転させて、
否定と攻撃が始まる。
そこはokiさんはだいじょうぶですわ。
- 2021/02/27(土) 11:58:05 |
- URL |
- 青梗菜 #De6CjWPI
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ランタナさん、こんにちは。
>職場の関係は職場の関係でいいと思います。
>ハビトゥスでつながって出会ったわけではないから。
その通りなんだけど、
期待してしまうわけよw。
- 2021/02/27(土) 11:58:41 |
- URL |
- 青梗菜 #De6CjWPI
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>女子は無論そうなんですが、
>男子もそうなんですねw
多くの場合は、そもそも自分が何を期待しているのか、
そこから問題を共有できないw。
>履歴とは、選択の結果ではなく、
>身体に刻まれた逡巡の痕跡ではないのか。
多くの場合は、どうでもいいよ、って返される。
- 2021/02/27(土) 20:43:31 |
- URL |
- 青梗菜 #De6CjWPI
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青梗菜さん、こんにちは!!^^
>続いて、「界(champ)」に進もう。
①世の界、②動物界・植物界・菌界(六日前大腸菌群出ました。)、③異界との境界、④隣家との境界線。では、象形文字としての界は何なのか?自分で調べますよ。忘れると思ふけど。m(__;m
- 2021/03/01(月) 17:00:50 |
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- くわがたお #-
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