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qinggengcai

対蹠点の発見 ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 6/x


>なんてふうに、娯楽を向こう側に回しながら、
>教養で編集されたようなものごとのテンプレ。
例えば、美術、なんてふわふわしたものごとについて、
様々な言説がこの世界を飛び交っているけれど、
そんなのは教養を基点にした対蹠点から、
自らの上等さをアピっているに過ぎないのではないか?



    200220b.jpg



    たとえば、ブルデューはアンケートで
    次のような質問をしています。
    「次のテーマで写真を撮った場合、
    それはどのような写真になると思いますか?」

    ここで挙げられているテーマは、
    風景、自動車事故、猫と遊ぶ少女、妊婦、
    工事現場の鉄骨、キャベツ、海の夕陽、
    民族舞踊、肉屋の肉切り台、木の皮、
    最初の聖体拝領(*)など二十一です。
    回答者は、それぞれを、
    美しい/面白い/つまらない/見苦しい、
    の四段階で評価します。

    *聖体拝領
    カトリック教会で、幼児洗礼の後に
    聖体(キリストの体と血にたとえられた
    パンとブドウ酒)を食する儀式。

    その結果は、回答者の学歴と見事に相関しました。
    たとえば、初等教育のみ修了
    あるいは未修了の人たちは、
    「最初の聖体拝領」や「民族舞踊」など、
    いかにも見栄えのしそうなテーマを写したものが、
    美しい写真になりうる、という答えを
    選ぶ人が最も多くなりました。
    ところが、ブルデューが卒業した
    エコル・ノルマルを含むグランゼコール出身者は、
    「最初の聖体拝領」ではつまらない写真になる
    という答えを選ぶ人が最も多くなっています。
    では、彼らはどんなテーマが
    美しい写真になりうると思っているか。
    「木の皮」です。
    ちょっと笑ってしまうような結果ですが、
    ただの、そのへんに生えている木の、
    ごつごつとした表面を写した写真が
    美しい作品になると考えるのは、
    いかにもインテリっぽい感覚です。[p25-26]

    またブルデューは、老婆の
    節くれだった手の写真を見せて、
    人びとがどんな反応を示すかを調査しました。
    『ディスタンクシオン』には、
    人びとが実際に言った言葉が紹介されています。
    最も貧しい階層に属するパリの労働者は
    「このおばあさんは、きっと
    働きづめだったにちがいない。(中略)
    ああ、これはどう見ても男爵夫人や
    タイピストの手じゃないね」など、
    倫理的な共感を示しています。
    一方、学歴の高いパリの上級技術者は
    「これはとても美しい写真だと思います。
    まさしく労働の象徴だ。
    私はフロベールの年とった召使女を思いだしますね」
    と言っている。[p26]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



老婆の手の写真が美しい、なんて感想に、怒りを感じないか?
その知性に富んだ感想に、嘘はないか?
高学歴の技術者は、最貧困層の労働者に対して、
圧倒的に勝っているくせに、どこまでも欲張りだ。
自らはきれいな手のままで、汚い手をした労働者の、
労働の美しさまでも手中に収めようとする。

なんだか、疚(やま)しさを感じないか?



    210201.jpg

老婆の手の写真が美しい、なんて感想に、怒りを感じないか?
その見識に溢(あふ)れた感想は、正直か?
老婆には、自分の手が美しいことなんか分からない。
おっかなびっくり差し出した手は、みっともなくて、
恥ずかしくて、写真になんか撮られたくないんだ。
ギュスターヴ・フロベールは、19世紀の小説家、

きっと写真の老婆は、その名前すらも知らない。



    

    Baby, let's shake hands, Oh, let's be friends,
    Oh, baby, let's be friends, I can't come up with a better plan

    ―― Let's Shake Hands/The White Stripes
    ―― Jack White 作詞作曲、1998、Italy Records



    手は大きく
    節くれだっているほどよい
    そんな手と握手するとき
    嘘はいえない
    それはまっ正直に働いてきた者の
    まっ正直な挨拶だからだ ……

    ―― 挨拶 ― 壺井繁治詩集
    ―― 壺井繁治 編、1954、アテネ文庫



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テーマ:哲学/倫理学 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2021年02月06日 00:00 |
  2. 自分らしさ
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4

コメント

事実と解釈。
お婆さんの手を見て、どう解釈するか面白い。
労働の蓄積、それは良いとして、何の労働をしていたのかは分からない。
汚らわしい仕事していたのかもしれない。
あまり読み込みすぎて、崇高な手だ!とか美化するのはどうかなと。
逆に言えば、インテリは、そんな肉体労働してないから、肉体労働に一種の憧れを持っているとも言える。だから、薄汚れた手から勝手に美化した解釈が出てくる。
お婆さんとしては、当たり前の生活をしていただけだから、薄汚れた手を見て、そんな評価されたらビックリするだけでしょう。ああ恥ずかしいと。
まるで、異星人が現れたみたいに。
芸術とは、特に写真芸術は事実を写して、観るものの解釈が異なることが面白いのですが、では、写真家はどんな意図を持って、この名もなき老人の写真を撮ったのか?
今、異星人という言葉を使ったけど、こんなところに未開の野蛮な老人がいる!とシャッターを押したのかもね。
一枚の写真から想像する異星人たち、面白い。
  1. 2021/02/06(土) 20:05:35 |
  2. URL |
  3. oki #ibS8y52A
  4. [ 編集 ]

青梗菜さん、こんばんは!!^^

>    タイピストの手じゃないね」など、
>    倫理的な共感を示しています。
倫理的ぢやなくて論理的ぢやね?

>老婆の手の写真が美しい、なんて感想に、怒りを感じないか?
美しいかどうかの判断は、その老婆の顔を見てからに僕はしたい。

>ギュスターヴ・フロベールは、19世紀の小説家、
検索しちやうぞ。m(__;m
  1. 2021/02/06(土) 21:41:23 |
  2. URL |
  3. くわがたお #-
  4. [ 編集 ]

okiさん、こんにちは。

>労働の蓄積、それは良いとして、何の労働をしていたのかは分からない。
>汚らわしい仕事していたのかもしれない。
>あまり読み込みすぎて、崇高な手だ!とか美化するのはどうかなと。
崇高な手にしておくのが、教養がある人の作法なのです。

>逆に言えば、インテリは、そんな肉体労働してないから、肉体労働に一種の憧れを持っているとも言える。だから、薄汚れた手から勝手に美化した解釈が出てくる。
なるほど、後ろめたさから、逆に振れてくる。

>お婆さんとしては、当たり前の生活をしていただけだから、薄汚れた手を見て、そんな評価されたらビックリするだけでしょう。ああ恥ずかしいと。
>まるで、異星人が現れたみたいに。
そうそう、お婆さんの気持ちを量らなきゃ。
インテリは、やっぱり頭がいいんだな。
アホは、まず、お婆さんの気持ちになってしまう。

>今、異星人という言葉を使ったけど、こんなところに未開の野蛮な老人がいる!とシャッターを押したのかもね。
ブルデューのフィールド調査に使われるとは夢にも。
  1. 2021/02/06(土) 22:02:00 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #De6CjWPI
  4. [ 編集 ]

がたおさん、こんにちは。

>倫理的ぢやなくて論理的ぢやね?
論理的ちゅうか、見たまんまです。

>美しいかどうかの判断は、その老婆の顔を見てからに僕はしたい。
手の話なので。

>検索しちやうぞ。
いやん。
  1. 2021/02/06(土) 22:02:40 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #De6CjWPI
  4. [ 編集 ]

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