馬鹿の世界の点景になりたい。

qinggengcai

Dancer in the Dark ―― of the darkness 3/4


 監督のラース・フォン・トリアー/Lars von Trierは、
 デンマークに生まれ育った。
 デンマークの国民なら、そのほとんどが死刑に異を唱える。
 スカンジナビア系の人々にとって、死刑制度は馴染みが薄い。
 デンマークも加盟しているEUは、死刑反対の共通の立場をとっている。

 トリアーはプレス資料に書く。
 「私は死刑制度に断固反対します」
 「その一方で死刑の場面は、監督にとっては神からの贈り物です。
 とても効率的なのです。
 殉教者になるためには死ななければなりませんから」
 ―― 『ビョークが行く』

 なるほど、セルマはトリアーによって殉教させられたのか?
 しかし、死刑制度に反対するのは勝手だが、
 死刑の場面に効率を求めてはいけない。
 この映画は感覚に訴えようとする偏りが顕著で、
 死刑廃止を訴えるには公平さを欠いている。


        scene 100、
        州刑務所の処刑室(屋内/夜)

        ……
        突然、すべての音楽が消える。
        処刑台の落とし板の上に立ったセルマ。

        ブレンダ:
            107歩。
        処刑官:
            セルマ・イェスコヴァ、最期の言葉は?

            よし、始めろ。

        係官がフードをかぶせる。
        その場に倒れるセルマ。

        ブレンダ:
            セルマ、セルマ。
            セルマ、頑張って。
            しっかりしなきゃ。
            さあ立って。
        処刑官:
            補助板を使え。
        ブレンダ:
            待ってください、大丈夫です。
            自分で立てますから。

        係官が補助板にセルマを横たえ、
        体を革ベルトで固定していく。
        むせび泣くセルマ。

        ブレンダ:
            落ち着いて。気を確かに持つのよ。
        処刑官:
            手も固定しろ。
        セルマ:
            怖いの。
        ブレンダ:
            しっかり。
        セルマ:
            怖くてたまらない。
        ブレンダ:
            分かってるわ。
        処刑官:
            では所定の位置に。
        ……

 処刑の場面では、その残虐さは強調される。
 セルマは、奈落に突き落とされ、宙吊りにさせられる。
 トリアーにとっては、それは神からの贈り物らしい。


 対して、犯行の場面では、その直後から残虐さが弱められていた。

        scene 56、
        ビルとリンダの家(屋内・屋外・川岸/昼間)

        セルマが歌い出すとビルが起き上がり、
        バスルームで血だらけの顔を洗う。
        何事もなかったかのように振る舞うビル。
        やがて彼も歌に加わってセルマを慰め、
        パトカーのサイレンが聞こえてくると彼女に逃げるよう促す。
        ……

        ……
        Does it hurt?
        I hurt you much more
        So don't you worry!
        ……

        ……
        痛かった?
        君が受けた傷には及ばない
        案じないでくれ
        ……

 感覚は、嘘をつかない。
 では、効率的に嘘をつく方法は、相手の感覚に訴求すればいい。

 死んだはずのビルが起き上がり、セルマと一緒に歌い踊る。
 不自然で、恣意的に過ぎないか?
 この滑稽な場面は ―― 僕たちの失笑と引き換えに、
 僕たちの心証におけるセルマの罪を軽くさせていたに違いない。


        scene 74、
        法廷(屋内/昼間)

        リンダ:
            夫は床に倒れていました。
            撃たれていて…。
        検察官:
            命乞いをしていたのですね?
        リンダ:
            そうです。「頼む、後生だから」と。

        リンダ:(セルマに)
            あなたは彼に慈悲のかけらも示さなかった。
            無慈悲な処罰を受けるといいわ。

 リンダの怒りや悲しみも軽減させられている。
 僕たちは、ビルの懇願、「頼む、後生だから」が、命乞いではなかったことを知っている。

        ビル:
            いいやセルマ、これでよかったんだ。
            撃てない僕の代わりに手を下してくれた。
            撃て。殺してくれ。
            友達だろう? 思いやりを示せ。
            頼む、殺してくれ。

            頼む、後生だから。

 そして、僕たちは、ビルを苦境に追い詰めた理由が、リンダの浪費癖だったことを知っている。
 遺族の心情を訴える短い台詞は、
 僕たちに反感を抱かせることで、ほとんど無化されてしまった。


 セルマが犯した罪に対して、不当に重い刑に処せられたと感じたときに、
 セルマの正当さが示される。
 逆に、もしもセルマが正当な ―― 例えば、何年かの懲役刑に処せられたなら、
 セルマの不当さが浮かび上がる。
 トリアーはセルマの罪を軽く見せかけながら、死刑に処さなければならない。

        160207c.jpg

        『ビョークが行く』
         /エヴェリン・マクドネル 著、栩木玲子 訳、
         2003、新潮社
        『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
         /ラース・フォン・トリアー 著、杉山緑 訳、
         2000、角川書店
        『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
         /ラース・フォン・トリアー 監督脚本、
         2000、松竹、Asmik Ace (video、DVD)



テーマ:映画感想 - ジャンル:映画

  1. 2016年02月08日 19:38 |
  2. 感想文
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6

コメント

青梗菜さん、こんばんは!!^^

>この映画は感覚に訴えようとする偏りが顕著で、
>死刑廃止を訴えるには公平さを欠いている。
私は感情の生き物ですが、^^;賛成を求める際そのデーター?がもし公平さを欠いているなら、賛成できないと感じました。m(__;m
  1. 2016/02/08(月) 21:12:24 |
  2. URL |
  3. くわがたお #-
  4. [ 編集 ]

がたおさん、こんにちは。

>私は感情の生き物ですが、^^;賛成を求める際そのデーター?がもし公平さを欠いているなら、賛成できないと感じました。m(__;m
映画は、笑ったり泣いたりするものですから、
死刑廃止に誘うには、ずるい媒体ですわ。
あ、でも、映画を観て泣いたことなんて、僕は一度もないです。
他人の気持ちが分からない、とか、
想像力が足りない、とか言われますw。
  1. 2016/02/08(月) 21:24:17 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

青梗菜さん、

>あ、でも、映画を観て泣いたことなんて、僕は一度もないです。
絶対だべな?
  1. 2016/02/08(月) 22:59:19 |
  2. URL |
  3. くわがたお #-
  4. [ 編集 ]

がたおさん、こんにちは。

はい、ウソでした。
どうして念を押すかなぁw。
  1. 2016/02/08(月) 23:07:16 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

あんだよう(っ×3)!!がっかりだぜ。^^;なお一応、想定の範囲内っす?泣いたことのない人なんているのか、(俺だ!俺だ!俺だ!(写し m(__;m もう寝るし。
  1. 2016/02/08(月) 23:31:57 |
  2. URL |
  3. くわがたお #-
  4. [ 編集 ]

がたおさん、こんにちは。

>あんだよう(っ×3)!!がっかりだぜ。^^;
しかたないよ、涙腺が老化してるんだわ。
心も身体も弱ってるからなぁ。
  1. 2016/02/09(火) 10:29:10 |
  2. URL |
  3. 青梗菜 #-
  4. [ 編集 ]

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック URL
http://qinggengcai.blog2.fc2.com/tb.php/1066-a165ffc3
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)