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qinggengcai

無何有の郷、藐孤射の山 8/8


    心をし無何有(むかう)の郷(さと)に置きてあらば
    藐孤射(はこや)の山を見まく近けむ
    ―― 万葉集、巻十六

        心を無何有の郷に置く。
        無何有の郷は、心の置き場所。
どこかにあって、どこにもなくて、
いたるところに現れる。
        自分の声が聞こえる場所。
        自分の言葉が語る場所。



    今子有大樹、患其無用、
    何不樹之於無何有之鄉、廣莫之野、
    彷徨乎無為其側、逍遙乎寢臥其下。
    不夭斤斧、物無害者、
    無所可用、安所困苦哉!
    ―― 莊子/内篇、逍遙遊第一

君は、大きな樹を手にしていて、
でも、その無用さを嘆いている。
        だったら、その樹を無何有の郷の、
        広漠な野に植えて、
その樹の周りを彷徨(さまよ)って、
無為に過ごしてみたり、
        その樹の下を散歩したり、
        なんなら、昼寝でもしてみよう。
斧で切られても、失くすことはないし、
盗まれることもない。
        それとも、その樹が無用ということで、
        何か困ることがあるとでも。



    Let me take you down,
    'cause I'm going to Strawberry Fields.
    Nothing is real and nothing to get hung about.
    Strawberry Fields forever.

    No one I think is in my tree,
    I mean it must be high or low.
    That is you can't you know tune in but it's all right.
    That is I think it's not too bad.
    ―― Strawberry Fields Forever

ついてきてくれないかな、
今から行くんだ、
        イチゴがたくさん、
        生(な)っている場所に。
本当のことなんて何もないから、
気にかけることも何もない。
        ストロベリー・フィールズで、
        いつまでも過ごそう。
僕は思うんだけど、
僕の樹の上には、
        誰もいないみたいだ。
        みんなには、高すぎるか低すぎるのだろう。
だから、分かっている。
君も僕に合わせることはできない。
        それは悪いことではないと、
        僕は思うんだけど。



    

    僕らが手にしている 富は見えないよ
    彼らは奪えないし 壊すこともない
    世界はただ妬むばっかり

    もしも 彼らが君の何かを盗んだとして
    それは くだらないものだよ
    返して貰うまでもない筈
    何故なら 価値は生命に従って付いている

    彼らが手にしている 富は買えるんだ
    僕らは数えないし 失くすこともない
    世界はまだ不幸だってさ
    ―― ありあまる富



    ―― Strawberry Fields Forever/The Beatles
    ―― John Lennon 作詞、Paul McCartney 作曲、
    ―― 1967、Parlophone

    ―― ありあまる富/椎名林檎
    ―― 作詞、作曲、椎名林檎、
    ―― 2009、EMIミュージック・ジャパン



テーマ:哲学/倫理学 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2017年10月31日 12:07 |
  2. 荘子
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無何有の郷、藐孤射の山 7/8


僕は、暴走族の、
 「夜露死苦(よろしく)」を先に、
万葉集の、
 「見末久知香谿務(見まく近けむ)」を後に、
        ジョン・レノンの、
        「イマジン」を先に、
        日本国憲法の、
        前文を後に、
椎名林檎の、
「ありあまる富」を先に、
荘子の、
「無何有(むかう)の郷」を後に、
        ビートルズの、
        「ストロベリー・フィールズ」を先に、
        荘子の、
        「逍遙遊(しょうようゆう)」を後に知った。

それらは、僕に相関しているだけで、
何か関係があるとは思えないし、
そんなのは、ほかの誰かにとっては、
くだらない、無用な関係、といっていい。
        誰も、僕に合わせることはできないし、
        僕も、誰かに合わせることはできない。
        ほかの誰かには、役に立たない関係なら、  
        「無何有の郷」に置いてこよう。

        僕以外には、価値のない関係だから、
        盗まれる心配もない。



    

    もしも 彼らが君の何かを盗んだとして
    それは くだらないものだよ
    返して貰うまでもない筈
    何故なら 価値は生命に従って付いている



    ―― ありあまる富/椎名林檎
    ―― 作詞、作曲、椎名林檎、
    ―― 2009、EMIミュージック・ジャパン



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  1. 2017年10月30日 20:13 |
  2. 荘子
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無何有の郷、藐孤射の山 6/x


いつからそうなったのか、
自然の対義語は人為、らしい。
二項対立は、一方が他方を支配し、
他方に対して高位を占める。
        自然と人とを対立させれば、
        自然が、支配的で、優位で、
        人は、従属的で、劣位になる。
        ふつうはそう考える。
そんな対立を、
最初から持ち合わせない知性が、
荘子の無為自然だが、
それは、さておき、
        地球にやさしい、ってのは、
        謙虚に見せかけた傲慢で、
        自然と人を対立させたまま、
        地位を逆転させている。

微弱なノイズを解析しよう。
やさしい、ってのは、
優位か、あるいは、
少なくとも、対等のことだ。
        従属的で、劣位な者から、
        支配的で、優位な者に対しては、
        用いる言葉ではない。
        ふつうはそう考える。

        地球にやさしい、
        なるほど、ずいぶん偉くなったものだ。



    

    もしも 君が彼らの言葉に嘆いたとして
    それは つまらないことだよ
    なみだ流すまでもない筈
    何故なら いつも言葉は嘘を孕んでいる



    ―― ありあまる富/椎名林檎
    ―― 作詞、作曲、椎名林檎、
    ―― 2009、EMIミュージック・ジャパン



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  1. 2017年10月29日 22:14 |
  2. 荘子
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無何有の郷、藐孤射の山 5/x


例えば、地球にやさしい、
そんな嘘くさいフレーズを、
僕は、気持ち悪く思う。
        そんなフレーズは、
        内側からは生まれない。
        外側から聞こえるだけ。
外側の声に耳を傾けて、
しかし、ノイズが混じってくるから、
僕は、気持ち悪く思う。

        僕にとって、
        僕が無為であることは、
        僕の内側の声を聞くこと。
僕にとって、
僕が自然であることは、
僕の内側の声に従うこと。
        ただし、内側の声は、
        外側の声に耳を澄ませることで、
        かすかに聞こえる不一致感。

        それは、微弱なノイズを、
        解析するようなもの。



    

    もしも 君が彼らの言葉に嘆いたとして
    それは つまらないことだよ
    なみだ流すまでもない筈
    何故なら いつも言葉は嘘を孕んでいる



    ―― ありあまる富/椎名林檎
    ―― 作詞、作曲、椎名林檎、
    ―― 2009、EMIミュージック・ジャパン



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  1. 2017年10月28日 12:12 |
  2. 荘子
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無何有の郷、藐孤射の山 4/x


いつからか、人は、
自然を破壊してきた、らしい。
人に不都合が生じたから、
自然が破壊された、
なんて言っているだけで、
自然は壊れることなんてないのに。

自然の側からしてみれば、
自然は人のためにあるわけではないし、
破壊されても困らないし、
保護されても嬉しくもない。
人が想う破壊も、保護も、
自然はまったく意に介さない。

地球にやさしい、なんて、
恩着せがましく保護されても、
見当違いにも程がある。
人と自然を対置させて、
人と自然を切り離し、
人は、人が中心になりたがる。

自然の対義語は人為、らしい。
なるほど、ずいぶん偉くなったものだ。



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  1. 2017年10月28日 12:07 |
  2. 荘子
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無何有の郷、藐孤射の山 3/x


無何有(むかう)は、
自然のままで、
何の作為もないこと。

自然も、無為も、
環境倫理学のそれとは、
似ているけれど違う。

エコ、リサイクル、オーガニック、
ナチュラル、ロハス、などなど。
多くを共有しながら、

わずかに分岐して見えるとき、
言いたいことは、
差異に集約されている。

そして、それらと、
無何有との分岐点は、
末端ではない。

主意から異なっている。



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  1. 2017年10月26日 19:31 |
  2. 荘子
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無何有の郷、藐孤射の山 2/x


無何有(むかう)の郷(さと)は、
無為自然の世界で、
藐孤射(はこや)の山は、
神人の住む異界で、
どこかにあって、
どこにもない場所。

どこにもない場所、ってのは、
たいていは、自分の外を探しても、
ってのがよくあるパターンで、
無何有の郷も、
藐孤射の山も、
自分の心の内にある。

どこにもないけれど、
どこにでもある、
どこにもないから、
いたるところに現れる、
ってのがよくあるオチになる。
そんなありきたりな逆説を、

臆面もなく採ろうと思う。



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  1. 2017年10月24日 12:13 |
  2. 荘子
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無何有の郷、藐孤射の山 1/x


原文、
心乎之無何有乃郷尓置而有者
藐狐射能山乎見末久知香谿務

訓読、
心をし無何有(むかう)の郷(さと)に置きてあらば
藐孤射(はこや)の山を見まく近けむ

仮名、
こころをしむかうのさとにおきてあらば
はこやのやまをみまくちかけむ

―― 作者未詳、万葉集、巻十六



心を無為自然の世界に置いていれば、
遥か遠くの、神人の住む異界を、
間近に見るのだろう。

「無何有の郷」と「藐孤射の山」を、
『荘子』から引いてきて、
「藐」と「知香」で遠近を対比させる。

詠み人知らず、天平の教養人。



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  1. 2017年10月22日 20:14 |
  2. 荘子
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夢に胡蝶と為る 6/6


不知、周之夢為蝴蝶與、蝴蝶之夢為周與。
周の夢に胡蝶となっても、
胡蝶の夢に周となっても、

夢を見ていたことが分かったなら、
誰が夢を見ていたのかは、
目覚めたときに、もう分かっている。

不知は、もっと不知で、
この不知は、目覚めたときに、
うろたえるほどの不知だ。

栩栩然蝴蝶也。
それは、蝶が蝶の身体を、
意識もしないで、自在に操る感覚。

不知周也。
蝶になった周は、蝶だから、
人の身体がどのようなものかも知らない。

目覚めた周は、テレビのチャンネルが、
意図せずに変わったような、
不連続の蝶と周に驚く。

連続は、不連続が定義する。
不連続は、連続が定義する。
人からは蝶が分からない。

蝶からは人が分からない。
目覚めたときの周の驚きは、
不連続なはずの蝶と人が、

連続してしまう驚きである。



    

    価値は生命に従って付いてる
    ほらね君には 富が溢れている

    ―― ありあまる富/椎名林檎
    ―― 作詞、作曲、椎名林檎、
    ―― 2009、EMIミュージック・ジャパン



ゴミの考えごとは、必ず間違いになり、
認められることもないけれど、
椎名林檎の歌とともに、

これを物化と呼ぶことにする。



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  1. 2017年10月21日 10:31 |
  2. 荘子
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夢に胡蝶と為る 5/6


栩栩然蝴蝶也、
そう書くより、ほかはないけれど。
栩栩然とか、蝴蝶也とか、
そう思った途端に、
もはや、蝶ではなく周である。

自分が蝶だと思ったら、
それは人が想う蝶になる。
蝶は自分を、蝶であるとも思わない。
愉しみも、志も知らない、
知るも、知らないもない。

夢の中で、自分が何になったのかが、
自分で分かっているのなら、
自分は何にもなれていないのではないか。
人は、人が想う蝶にならなければ、
蝶になったことが分からない。

蝶の側からしてみれば、
僕たちの思惑どおりの蝶の在り方では、
あまりにも心許ないと言うだろう。
人が蝶になるということは、
自分が何になったのかが、

分からなくなることである。



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  1. 2017年10月20日 19:03 |
  2. 荘子
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