馬鹿の世界の点景になりたい。

qinggengcai

仮題、空飛ぶクジラ 13


「侑さん、友達はできた?」
「うん、まあな」
「よかったね」
「でもな、原発の核燃料の取り出しが始まったやろ」
「うん」
「そっちの開発をしてるやつらは、もう帰り支度をしてるからな」
「へ~」
「増やさないと、減っていくなぁ」
「寂しくなるね」
「おれは、まだ二、三年はいてそうやけど」
 侑は、まだ何年かは福島にいる。
 洋は、話題を変えた。
「アメリカに行くのは、「こうたろう」だよね」
「うん」
「無人で行けそう?」
「うん。今でもパイロットは乗ってるだけで、なんにもしてへんからな」
「この前、書いたよ。メッセージカード」
「そうか~、届けたるわ。コンテナに詰めて」
「どれくらいの量かなぁ」
「小さいコンテナ1個でも足りるんとちゃうか」
「ふ~ん」
「5個は積めるから、余裕やわ」
「コンテナは、どんくらいの大きさ?」
「ドラム缶8本が入る大きさ」
「へ~」
「本来は、廃棄物を入れる容器の大きさなんやけど」
「うん」
「それが飛行艇(クジラ)の、積み荷の規格になるんよね」
「飛行艇(クジラ)で廃棄物を運ぶの?」
「運ばへんけど、コンテナの振り分けとか、積み下ろしとか、自動でできるシステムができてて」
「うん」
「それは、空港で、そのまま飛行艇(クジラ)に流用できるわけや」
「なるほど~」
「さて、前のタイヤも替えよか」
「うん」
 侑は、まだ何年かは福島にいる。
 それがうれしい。



  1. 2015年08月31日 19:06 |
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仮題、空飛ぶクジラ 12


「ミルクティー買(こ)うてきたわ」
「遅いよ」
「え~、そんなことはないよ」
 侑は、洋に缶を投げ渡した。
「違うよ、軍手のことだよ」
「ん~、そんなこともあるよ」
 侑は、鞄の中に軍手を戻した。
「ありがと~」
 洋は、缶を開けた。
「指はだいじょうぶ?」
「治ってきた」
「ほな、次は、前のタイヤな」
「前はいいよ」
「チューブちゅうのは、前後いっしょに替えるもんや」
「でも、こんなのだもん。ママチャリだよ」
「こんなのでも、ママチャリでも、自転車にええことをしてやれ」
「侑さんて、親切だね」
「ん~、そんなことはないよ」
「親切だよ」
「洋は遠慮しすぎちゃうか?」
「そうかな」
「子どもなんやから、なんも考えんと自分にええことをせぇ」
「ははは、やってるよ」
「これくらいのことで、親切なんて言(ゆ)うな」
「そうなの?」
「うん、悲しくなるやろ」
「変なの~」
 侑は、時々、分からないことを言う。
「あ~あ、また指が痛くなるよ~」



  1. 2015年08月30日 20:02 |
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仮題、空飛ぶクジラ 10.a


01~03、05~08、
忠義は、地の文では「忠義」、
会話では、その都度「たちゅ」のルビを振る。

10、
洋の自転車は、
よくある廉価な自転車で、見かけよりもずいぶん重い。



  1. 2015年08月30日 20:01 |
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仮題、空飛ぶクジラ 11


「空気入れ持ってきといて」
 侑は、ブレーキを分解して、摩擦面を磨いている。
「侑さんの自転車、かっこいいね」
「ブルーノな。尼崎から持ってきた」
「どこ? それ」
「ブルーノは、スイス。尼崎は、大阪と神戸の間」
「侑さんは、いつまで福島にいるの?」
「さあなぁ、まだ当分、いてると思うけど」


 洋が、空気入れを持って戻ってきた。
 侑は、後輪を外して地面に寝かせた。
「バルブを外して。手で回るわ。ひっこ抜いて」
 空気が抜ける音がした。
 侑は、洋に10ミリのレンチを渡した。
「下のナットな」
 洋は、ナットを外した。
「こうすると、タイヤが外れる」
 侑は、リムとタイヤの間にタイヤレバーを突き刺して、反対側の端をスポークに引っ掛けた。
「やってみ。位置はバルブをはさんで、隣のスポーク」
 洋は、2本めのレバーを突き刺した。
「そうそう。縁は硬いやろ。ワイヤが入ってるからな。その縁を、ビードって呼んでる」
 洋は、レバーをスポークに掛けた。
「はい、次、3本め」
  まじめな顔つきになっている洋を見て、侑は微笑んだ。
「2本めを外して。3本めの横に突っ込んで。レバーをリムに沿わしてぐるっと動かす」
「お~っ」
 ビードは、あっけなく外れた。
「ビードが外れたら、あとは手で取れる。次は新しいチューブな」
 侑は、チューブが膨らむ程度に空気を入れている。
「リムの穴に通して」
 バルブがついているほうを上にして、侑はチューブを手渡した。
「片側ずつビードをはめる。この位置をバルブに」
「タイヤにも位置があるの?」
「位置を決めとくと、パンクしたときになにかと便利やねん」
「ふ~ん」
「次は、チューブをタイヤの中に入れる、ちゅうよりも、リムに乗っける感じな」
 洋は、チューブをタイヤに収めた。
「反対側のビードをはめる。バルブのあたりは最後にはめる」
 洋は、ビードをリムの中に入れ、しかし、最後がうまくいかない。
「硬いなぁ、これ」
「タイヤレバーで押してみ」
「もう握力が無理」
「がんばれ」
「声援はいいから手伝ってよ」
「あ、そう。そのままにしててや」
 侑は、ビードを押し込んだ。
「指が痛い~」
「お疲れっ、休憩な」
「指がぜんぶ痛い~」
 侑は、飲みものを買うために、鞄の中の財布を探した。
「あ、軍手があった」
「指が十本とも痛い~」
 侑は、スポークの上に軍手を投げた。
「洋っ、軍手はめる?」



  1. 2015年08月28日 23:47 |
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仮題、空飛ぶクジラ 10


「直径が20インチ、幅が1と8分の3インチやね」
「すげぇ、見ただけで分かるの?」
「いやいや、タイヤに書いてあるし」
 侑は、鞄からチューブと工具を取り出した。
「空気入れはある?」
「うん」
「ほな、始めよか」
「ありがとう」
 洋は、うれしくて、どこか気恥ずかしい。
「よっこいしょ」
 侑は、洋の自転車をひっくり返して、逆さまに立てた。
「お母さんは、自転車屋に持っていけ、って言うけど」
「そらそうや」
「千八百円もかかるよ」
「まぁ、そんなもんちゃうか?」
「チューブって、五百円くらいで売ってるのに」
「まぁな。お父さんは?」
「地震のときから行方不明」
「そうか~。15ミリのメガネ取って」
「これ?」
「そうそう」
 洋は、メガネレンチを手渡しながら訊いた。
「謝らないの?」
「うん?」
「ふつうは、ごめん、って言うよ。悪いこと訊いたな、って」
「ごめんなぁ、洋。おれって、常識がないねん」
「ははは、そっちを謝るのか~。ちょっといないよ、そんな大人は」
「ごめん、こんなとき、なんて言(ゆ)うてええんか分かれへん」
「いいよ。ほんとはね、謝られても困るから」
「そう思うわ」
 侑は、後輪の車軸を見たまま言った。
「なぁ、洋」
「なに?」
「お父さんがいてへんのは、悪いことでも、かわいそうなことでもないからな」
「ははは、変わってるなぁ、侑さんは」
 侑は、洋に労わられている。
「なぁ、洋」
「なに?」
 ふがいないけれど、しかたがない。
 やっと洋の顔を見ながら言った。
「ブレーキの鳴きも止めたるわ」



  1. 2015年08月27日 19:36 |
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仮題、空飛ぶクジラ 09.a


06、
no more peace messages、
忠義(たちゅ)のメッセージは、
クレヨンで書くことにする。
水に濡れても、消えないように。

09、
>後部座席と機体の底が燃料タンクに改造され、ドラム缶18本分の燃料が積み込まれた。
これは、改める。
誤読の可能性と、「燃料」の重複を避ける。
後部座席と機体の底が燃料タンクに改造され、ドラム缶18本分のガソリンで満たされた。


手紙は必ず届く、
そんなラカンのテーゼをそれとなく織り込もう。
ラカンは、例えば、手紙をボトルに入れて海に流した場合でも、
必ず届くと言う。

宛名のない手紙でも。



  1. 2015年08月27日 11:54 |
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仮題、空飛ぶクジラ 09


 1931年10月。
 青森県、淋代(さびしろ)海岸から単発、単葉の小型機が飛び立った。
 ミス・ビードル号と名づけられたそれは、41時間後に、ワシントン州ウェナッチに着陸した。
 乗っていたのは、クライド・パングボーンとヒュー・ハーンドン。
 彼らは、北太平洋を無着陸で横断飛行した最初のパイロットになった。

 ミス・ビードル号は、ベランカ飛行機会社のスカイロケット旅客機を改造したもの。
 425馬力、全幅14.1m、全長8.5m、乗員2名、乗客5名、最高速度は240km/h。
 後部座席と機体の底が燃料タンクに改造され、ドラム缶18本分の燃料が積み込まれた。

 アメリカに着いて、着陸できる飛行場を探したが、悪天候のため降りられない。
 彼らは、ウェナッチの丘の上にある小さな飛行場に着陸することを決めた。
 そこに、クライドの母親と兄弟が出迎えに来ている。
 そこは、ヒューの故郷にも近い。

 クライドは、胴体着陸を敢行する。
 空気抵抗を減らすため、主脚は離陸してすぐに太平洋に捨てられていた。
 失速寸前の速度で進入し、滑走路の端でエンジンを切った。
 不運にも、プロペラは垂直方向で止まり、滑走路に衝突して砕けた。
 機首を上げ、燃料タンクで膨れた胴体を滑らせると、つんのめるように機尾が持ち上がる。
 やがて機体は、左翼を地面にこすりつけ、土埃を巻き上げながら動きを止めた。

 地上に降り立ったクライドは、母親にリンゴを五つ手渡した。
 ほかにはなにも積まれていない。
 日本からアメリカに届けられた積み荷は、それだけだった。

    150825.jpg



  1. 2015年08月25日 23:18 |
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仮題、空飛ぶクジラ 08


「侑さんてさぁ、花さんのことが好きなの?」
 安曇が洋に訊いた。
「うん、かなり好きだと思うよ。花さんのことをいろいろ訊いてくる」
「分かりやすいなぁ」
「どうしたいんだ? 侑さんは」
 忠義(たちゅ)が冷やかに言った。
「花さんがバイトしてるお弁当屋に通ってるうちに」
「うん」
「自然に仲よくなって」
「うん」
「自然に友達になって」
「うん」
「自然に恋人になりたい」
「自然にそうなるのは、不自然な気がする」
 忠義は呆れた顔をしている。
「いまは、どの段階?」
 安曇は笑いを隠せない。
「花さんがバイトしてるお弁当屋に通ってるところ」
「あ~あ、一歩も進んでないよ」
「次の土曜日に会うよ、侑さんと」
「お弁当、買いに行くの?」
「その前に、自転車のチューブを交換してもらう」
「やっぱり、行くんだ」
「タイヤが好きだなぁ、侑さんは」
 忠義が茶化した。
「ん、どうゆうこと?」
 安曇は、忠義の言ったことが分からない。
「侑さんは、飛行艇(クジラ)を作ってるだろ?」
「うん」
「受け持ちが、燃料タンクと車輪なの」
 洋が解説した。
「ふ~ん」
 安曇は妙に納得している。
「なんだか、脇役だなぁ」

    150823.png



  1. 2015年08月23日 10:15 |
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仮題、空飛ぶクジラ 07


「でもさぁ、はじかれるかもよ、変なことを書いてると」
「チェックが入るよね」
「広島と長崎と福島の子どもたちからのメッセージなぁ」
「たちゅはなにが気に入らないの?」
「なんだか、落ち着かないなぁ」
 忠義(たちゅ)は、ためらいながら言った。
「自分が正しいことを書きそうになるのが、気持ち悪い」
「変なの~」
 安曇は笑った。
「たちゅは優等生が嫌いなだけでしょ?」
「あ~、それもある」
「優等生は、変なことを書かないもんね」
「心がないんだよ。誰かにほめられることを選んでるやつは」
「かわいくない子どもだなぁ」
「まったくなぁ」
「たちゅのことだよ」
「どうせ、おれは心がすさんでるよ」
「なんにしても、私は、戦争より平和のほうが正しいと思うよ」
「でもね、安曇、たぶん世界中の人がそう思ってるよね」
 洋も、もどかしさを感じている。
 忠義は、メッセージを抽象化した。
「戦争はいやだ、って伝えたいけど、誰に伝えるんだろう」
「そういえば、そうだな、たちゅ」
 洋も思いついた。
「主語もないよ。誰が誰に伝えるかが抜けていて、ふわふわしてる」
「他人事(ひとごと)っぽいもんね」
 安曇は、乗り気になれない理由が浮き彫りになった気がした。
「宛名も書いてないのに、誰に届くの?」
 三人は、なにが足りていないかを見つけたようだ。
 それでも、まだまだ足りない気分を残したままに。



  1. 2015年08月20日 21:08 |
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仮題、空飛ぶクジラ 06


「カードってなに?」
「さっきから、洋が丸めたり扇いだりしている、四角い紙のことだよ」
 一瞥もしないで、安曇が答えた。
「みんなで平和へのメッセージを書いて」
「うん」
「それを、飛行艇(クジラ)がアメリカに届けるの。思い出した?」
「そのカードは、いつ書くの?」
「いま書くの」
「だんだん分かってきた」
「よかったね」
「安曇はなんて書いてるの?」
 洋は安曇のカードを覗きこんだ。
「見ないでよ。no more warsとか、peaceとか、適当なこと書いてるよ」
「先生は、なんて言ってたっけ?」
「なんでもいいから、自分の思ってること、って言ってた」
「そのわりには、いろいろ書いてるなぁ」
 Love and Peace、Peace Message、Welcome to Tokyo Olympic 2020、…。
 洋は、図工の先生の板書を読んでいる。
「自分の思ってることを、あの中から選べばいいよ」
「おれの思ってることは、あの中にはないけどな」
「外にはあるの?」
「ははは、どこにもないよ」
「私もないよ。戦争とか平和とか、私はなんとも思ってないよ」
「だよなぁ」
「だから、私はなんでもいいの」
「分かった、おれもno more peaceにする」
「no more peaceは違うだろ」
「たちゅはなんて書くの?」
「ちょっと待って。いま思いついた」
 忠義(たちゅ)は黒板を写している。
「書いた。no more peace messagesにする」
 カードを見せながら忠義が言った。
「もうこれ以上、ピース・メッセージはいらない、ってこと?」
 安曇が訳した。
「あ~あ、書いちゃったなぁ」
 洋が嘆いた。
「かわいくない子どもだなぁ」
「心がすさんでるよね」
「見かけはきれいにしてても、心がなぁ」
「勉強はできても、人を思いやる気持ちがねぇ」
「世界はひとつになれないよ」
「心が通わないもん」
「世界中のみんなが手を取り合ってるのに、たちゅで切れたよ」
「たちゅみたいな子どもの笑顔は、守らなくてもいいね」
 洋と安曇の気持ちを書き表わしてやったのに、どうしてこんなに揶揄されるのか。
「そこまで言うことないだろっ!」
「そして、すぐにキレる」
「平和への道のりは遠いね、たちゅ」

    150822.jpg



  1. 2015年08月11日 12:41 |
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