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界 ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 1/x


    私たちは、この音楽は好きだけれど
    あの音楽は嫌い、
    この学校に行きたいけれど
    あの学校には行きたくない、
    あの人とは結婚したくないけれど
    この人とは結婚したい、などと
    その都度自分で選んでいるようですが、
    大きな視点に立てば、
    私たちが「この音楽」や
    「この学校」などに集められているわけです。

    ですから、ハビトゥスは世界を
    分類していくものであると同時に、
    それによって行為者が
    分類されていくものでもあります。
    傾向性(dispositions)の体系としてのハビトゥスに
    分類されることによって、
    その人の位置(position)が確定され、
    同じハビトゥスを持つ者たちの
    集団(クラスター)ができていきます。
    こうして似た者同士の集団がつくられることによって、
    人びとは何者かに「なっていく」のです。

    本人としては主体的に選び取っているつもりでも、
    一歩引いて全体を眺めてみると、
    共通のパターンが見えてくる。
    そして、ある階層やクラスターに分類される。
    …… 分類すると同時に、分類される。
    それがハビトゥスという概念の
    強力なところです。[p38-39]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



    200128a.jpg



    ハビトゥスとは何でしょうか。
    それは、家庭や学校のなかでたたき込まれた
    性向、態度、傾向性です。
    つまりそれは、それまでの人生の履歴、
    蓄積なのです。
    私たちの態度や感情、そして身体には、
    「履歴がある」のです。
    それは行為のなかに蓄積された過去の履歴であり、
    学習と訓練によって
    長い時間をかけて獲得された
    身体の記憶です。[p85]



身体の記憶は、一つだけだろうか。
つまり、ハビトゥスは一つだけだろうか。
僕は、老婆の節くれだった手の写真を見て、
美しいとも思うし、醜いとも思う。
ゆえに、どちらとも言えない、とも思うし、
答えられない、答えは一つではない、とも思う。

しかし、どれも、完全に自分と一致する答ではない。
いくつものコンテクストに足を取られて、
たくさんの選択肢の前で立ち止まり、
怒りや、疾(やま)しさや、優しさや、
さまざまな感情を抱えて迷い込む。
僕には、そんな態度や感情の履歴がある。

「おもひでぽろぽろ」のタエ子のいい子ぶりも分かるし、
ほかの女子たちの、分かりやすい嫌悪も分かる。
タエ子が考える理由も分かるし、
トシオが立てた推論も分かる。
誰の心も自分なりの論理を持っていて、
持っている論理だって、一つだけとは限らない。

それでも、何かを選択して、クラスターに分類され、
何者かになってきたんだと思う。
しかし、何者かになれば、似た者同士の集団で括られて、
過度に単純化されてもいいのだろうか。
僕の身体には、戸惑い、ためらい、迷った記憶が、
書き込まれているのではないのか。

履歴とは、選択の結果ではなく、
身体に刻まれた逡巡の痕跡ではないのか。



    

    Put your troubles in a little pile, And I will sort them out for you
    I'll fall in love with you, I think I'll marry you

    ―― Apple Blossom/The White Stripes
    ―― Jack White 作詞作曲、2000、Sympathy for the Record Industry



    ブルデューは、私たちの行為だけでなく、
    態度や能力、主観的な判断や評価、
    無意識の感覚や身体所作までも、
    社会や歴史によって規定され、
    構築されたものとして捉えます。
    それが彼にとっての「人間」の本質なのです。
    この人間の本質を描くために
    ブルデューが導入したのが、
    「ハビトゥス」「界」「文化資本」
    という独自の概念です。[p30]

続いて、「界(champ)」に進もう。
「ハビトゥス」に、「界」概念が絡まってくる。



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  1. 2021年02月27日 00:00 |
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 9/9


    私たちはハビトゥスによって
    趣味や好みを選んで(分類して)います。
    と同時に、私たちはハビトゥスによって
    分類される存在でもあります。
    ハビトゥスの側から見ると、
    ハビトゥスが人を分類していくのです。[p38]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



ブルデューは扱わないと思うけれど、
例えば、優しさ、なんてものに駆動された感情も、
誰かにとっては、一日に何度も湧き起こり、
別の誰かにとっては、その感覚さえも忘れかけている。

分かる人には分かり、分からない人には分からないような、
身体に根差した、としか言いようがないもので、
分からない人が見過ごしてしまう感覚を、
しれっと拾い上げるのが、分かるという感覚だ。

そして、ハビトゥスは、日を追うごとに、
変わらないものに変えられるだろう。
ハビトゥスの側から見ると、ハビトゥスは人を分類するから、
優しくない人は、優しくない人たちのターミナル駅で降ろされる。

隣の駅なら、優しい人たちによって、
優しさを交換する光景が繰り広げられているのに。



    200127g.jpg



そこでは、自分とは違う価値観の人たちが、
自分とは違う言葉づかいで、自分には共有できない感覚で、
しかし、それが当然のように暮らしているらしい。
自分のもとには届けられない優しさを持ち寄って。

世の中は優しくない、とか、昔と違って冷たくなった、とか、
調べようもない世の中の優しさを量ったり、
比べようもない世の中を比較するよりも、
ハビトゥスぽく考えれば、優しさは、自らの偏向の問題だ。

優しい人たちの間で育(はぐく)まれ、
優しくない人たちの間には生まれないような、
優しさは、本来、偏ったものである。
そもそも、自分のもとに届けられることがないのなら、

優しさの総量の多寡も、その増減の推移も、
問題にすることはないだろう。



    

    You know, it's so hard to love someone that don't love you
    Won't get satisfaction, don't care what you do

    ―― Death Letter/The White Stripes
    ―― Son House 作詞作曲、2000、Sympathy for the Record Industry



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  1. 2021年02月25日 00:00 |
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 8/9


    私たちはハビトゥスによって
    趣味や好みを選んで(分類して)います。
    と同時に、私たちはハビトゥスによって
    分類される存在でもあります。
    ハビトゥスの側から見ると、
    ハビトゥスが人を分類していくのです。
    ここが大事なところです。

    たとえば私たちは、なるべくいい大学に入り、
    就職したい会社を選び、
    配偶者を選んでいると思いがちです。
    つまり、行為者である自分が
    世界を選(よ)り分(わ)け、
    一本道を切り開いて
    まっすぐに進んでいると考えています。

    ところが世界の側からすると、
    たくさんの人々の人生の軌道が、
    まるで巨大なターミナル駅にやってきたり
    そこから出ていったりする鉄道の線路のように、
    集まったり分れたりしているように
    見えるはずです。[p38]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



もしも、僕が、本屋の専門書の棚だったら、
或いは、心療内科の待合いの椅子だったら、
人が、おおよそ、同じように見えていて、
しかし、なにゆえに同じような人たちが、
こんなにたくさんいるのか、…… とは考えないだろう。
なぜなら、違うような人たちを知らないからである。



    200220d.jpg



では、自分が、望ましくない、って環境に、
身を置き続けることが危険なのは、
自分で、望ましくない、ってこと分からなくなるからである。
ターミナル駅に降り立って、周囲を見渡して、
周りの人たちと自分は違う、って、
自分は自分で、分離可能だ、って思っていても、

ほかの駅から眺めてみれば、おおよそ、自分は、
同じような人たちの一人に過ぎない。



    

    She's in love with the world, But sometimes these feelings
    Can be so misleading, She turn and says "are you alright?"

    ―― Fell in Love with a Girl/The White Stripes
    ―― Jack White 作詞作曲、2002、XL Recordings



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  1. 2021年02月24日 00:00 |
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 7/9


    …… 子どもがピアノを習わされたとします。
    このとき、この子は何を体得しているのでしょうか。
    もちろん、ピアノを弾く技術だけではありません。

    その子どもは、世の中には芸術と呼ばれるものがあり、
    そのひとつに音楽があることを学びます。
    そして音楽にもクラシックやジャズやロックや演歌などの
    さまざまなジャンルがあり、
    それぞれに「社会的意味」が異なることを学ぶでしょう。
    それらのジャンルがそれぞれ
    どのような場で生産・消費され、
    どのような人々によって受容されているかを学びます。
    さらに、それぞれの社会的な価値付け、
    つまり権威の高さや低さ、堅苦しさ、
    高級感、安っぽさ、荒々しさ、洗練度などの
    違いについての感覚を身につけます。[p33-34]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



権威の高さや低さ、堅苦しさ、
高級感、安っぽさ、荒々しさ、洗練度、
それらは、身につける、としか言いようがないもの。
分かる人には分かる、分からない人には分からない。

分からない人が聞き捨ててしまう感覚を、
しれっと拾い上げるのが、分かるという感覚だ。



    200223c.jpg



    さらにここが非常に重要なところなのですが、その子は
    「何かを努力して身につける」という過程を体験します。
    目の前の楽しみを先送りにしてでも、
    いま努力することで技能を習得する。
    そういう態度を学ぶわけです。
    この態度、あるいは傾向性は、
    おそらく将来、学校教育をはじめとする
    さまざまな場でも有用であるに違いありません。[p34]



感覚を身につける、何かを努力して身につける、
身をもって、そんな体験をする。
それが、身体化、ということで、
なるほど、ハビトゥスは、身体に深く根差した必然だ。

言葉とは、身体ほどには、通じないものである。
人は、それぞれ、これまでの体験によって、
例えば、努力、なんて言葉に意味を与えていて、
だから、言葉には共通の意味なんてありはしない。

ブルデューは扱わないと思うけれど、
例えば、優しさ、ってのは、これまでの体験によって、
身の周りの、疲れている人や、弱っている人を、
しれっと感じ取れる態度や、傾向性である。

そんなふうに、ハビトゥスは、言葉を通じさせるための、
大切な土台に数えることができるだろう。



   

    When I say nothing, I say everything
    Yeah, when I say nothing, I say everything

    ―― Lazaretto/Jack White
    ―― Jack White 作詞作曲、2014、Third Man Records



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  1. 2021年02月23日 00:00 |
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 6/9


    『ディスタンクシオン』においては、ハビトゥスは
    非常に深いレベルで私たちの嗜好や行動を方向づける
    「身体化された必然」であると書かれています。
    つまり、私たちは、意図することなく自然に、
    無意識に、反射的に、ある選択や
    評価をしているというわけです。

    これには賛同しかねる部分も
    あるのではないでしょうか。
    たしかにハビトゥスらしき傾向性は
    あるかもしれないけれど、
    私たちはいつも同じ行動を
    機械的に産出しているわけではありません。
    その場その場の文脈において、
    自由に、自分の意志で、主体的に
    評価や行為をおこなっている感覚があるはずです。

    ところがブルデューは、それらを積み重ねて
    マクロレベルで見てみると、
    私たちの行動やものの捉え方には
    一定のパターンがあるのだといいます。
    そのパターン、つまりハビトゥスからは、
    完全に自由になることはあり得ない。
    そういう意味で「身体化された必然」と
    言っているわけです。[p32-33]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



では、ブルデューを理解しようと努めて、
至らなくても、まがいなりにも、ある程度は理解して、
理解した上で、何かにつけてブルデューに突っかかる僕なら、
ハビトゥスから自由であろうとする傾向性がある。

何かにつけて、意図することなく、自然に、無意識に、
反射的に、自らのハビトゥスを疑って、
つまり、自らのハビトゥスに対して、不自然で、意識的で、
自覚的でありたいと思う性向がある。

或いは、そんな傾向性や性向、それさえも、
いつもと同じ、僕の、機械的なハビトゥスの一つであり、
ハビトゥスから逃れることはできないと、
そう言われたなら、言い返せなくなるけれど。

いつだって、そんなことを書いている僕なら、
なるほど、ハビトゥスは、身体に深く根差した必然だ。



    200223d.jpg



>非常に深いレベルで私たちの嗜好や行動を方向づける
>「身体化された必然」であると書かれています。
ハビトゥスをそのように定義したのなら、ちょっと狡(ずる)い。
ハビトゥスから自由になることはあり得なくて当然だ。

自由になることができるのなら、
それは、もとより、ハビトゥスではあり得ないもの。



    

    Well, Americans: What, nothin' better to do?
    Why don't you kick yourself out? You're an immigrant too.

    ―― Icky Thump/The White Stripes
    ―― Jack White 作詞作曲、2007、Warner Bros.



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  1. 2021年02月22日 00:00 |
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 5/9


    …… ハビトゥスとは私たちの評価や行動の
    さまざまな傾向性のことであり、
    同時にそれらを生み出す原理のことです。
    また、それは一回性のものではなく持続性があり、
    異なる分野においても
    同じ傾向を示す(移調可能)と言っている …… [p32]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版

カウリスマキや、アンダーソンの映画、
ジャズが好きで、ウッドベースを弾く、
それらの、いかにもインテリなハビトゥスが、

多くのインテリたちの心をつなげて、
一つにまとめ上げるなんて、
僕には、B級SFホラー映画としか思えない。



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要領のいい、分別くさいハビトゥスが、
期待した通りに、カウリスマキから感動を受け取り、
予想した通りに、アンダーソンに感性を磨かれる。

自分の経験に基づいた心の内は、
まだ言葉を与えられていないはずなのに、
出来合いの教養で、すでに用意されているような、

誰からも反論されないような言葉に置き換えられる。



    

    Now it's easy when you don't know better
    You think it's sleazy? Then put it in a short letter

    ―― The Hardest Button to Button/The White Stripes
    ―― Jack White 作詞作曲、2003、XL Recordings



B級SFホラーの舞台は、2021年の宇宙空間 ―― 、
船員たちは、敵の正体が分からず、
幻想なのか、現実なのかも判然としないまま、

見えない敵を相手に、脱出ゲームに参加させられる。



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  1. 2021年02月21日 00:00 |
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 4/x


    …… いちばん好きな映画監督は
    フィンランドのアキ・カウリスマキ、
    あるいは映画好きにはファンの多い
    ポール・トーマス・アンダーソン。
    いかにもインテリでしょう?

    音楽はジャズが好きで、
    趣味でウッドベースを弾きます。
    ミュージシャンで言うと、
    ボサノバではジョアン・ジルベルト、
    クラシックではグレン・グールド、
    ロックではエイミー・マンが好きです。…… [p10-11]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



岸政彦が好きというなら、何を並べても構わないけれど、
おおよそ、したくないことをしている人、ってのは、
それをしていない他人が気になるから、

ついつい、自分がしていることを自慢する、
他人のやり方にケチをつける、
しない他人に怒る、しない他人を馬鹿にする、

さらには、他人にもすることを強要してくる。
そんなスノッブには、僕はうんざりするし、
無理してしなくてもいいのに、って思ったりする。

ブルデューがハビトゥスという術語に託したものが、
外形的な類型なら、例えば、カウリスマキや、
アンダーソンの映画を心ならずも称揚することで、

晴れてインテリの仲間入りを果たせるのだろう。
いかにもインテリらしいハビトゥスで、
いかにもインテリらしく感動してくれ。



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    …… ハビトゥスとは私たちの評価や行動の
    さまざまな傾向性のことであり、
    同時にそれらを生み出す原理のことです。
    また、それは一回性のものではなく持続性があり、
    異なる分野においても
    同じ傾向を示す(移調可能)と言っている …… [p32]

カウリスマキや、アンダーソンでなくても、
家族の機能不全、破壊される人間性、
疎外や孤独を扱う映画はいくらでもある。

カウリスマキや、アンダーソンでなきゃならない性向、
それは、他のものごとに対しても、
置き換え可能な必然であるが、

そのハビトゥスが、他人から知的と思われたい性向、
でなければいいと願って已(や)まない。



    

    Change my friends to enemies, and show me how it's all my fault.
    Yeah I won't let love disrupt, corrupt or interrupt me

    ―― Love Interruption/Jack White
    ―― Jack White 作詞作曲、2012、Third Man Records



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  1. 2021年02月20日 00:00 |
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 3/x


    …… いちばん好きな映画監督は
    フィンランドのアキ・カウリスマキ、
    あるいは映画好きにはファンの多い
    ポール・トーマス・アンダーソン。
    いかにもインテリでしょう?

    音楽はジャズが好きで、
    趣味でウッドベースを弾きます。
    ミュージシャンで言うと、
    ボサノバではジョアン・ジルベルト、
    クラシックではグレン・グールド、
    ロックではエイミー・マンが好きです。…… [p10-11]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



僕なら、誰もが知っていそうな、
ヒッチコックや、キャプラを挙げる。
直近で、聴いているのは、
ヨアソビと、ヨルシカでいい。

ジョアン・ジルベルトも、グレン・グールドも、
エイミー・マンも、とてもメジャーな人たちで、
そんなものは、取り立てて差異も、それほどに弁別も、
たいした卓越さもないと思っている。

演歌なら、石川さゆり、ちあきなおみ、
彼女たちの歌は、どんなジャズ・ヴォーカルよりも好きだ。
楽器なら、幼稚園の頃は、ピアノを習い、
中学生からは、ギターを弾いている。



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今年になって読んだ小説は、
姫野カオルコ、川上未映子、恩田陸。
>いかにもインテリでしょう?
では、僕は、いかにも馬鹿っぽいでしょう?

ってか、難解さやマイナーさをありがたがるような、
中二病みたいな気負いがないんだ。
ってか、岸政彦は、あえて、いかにもを並べていて、
僕も、わざわざ、外し気味に並べているのだろう。



    おもしろい話が残っています。
    アメリカの哲学者ジョン・サールが、
    君はどうしてあんなに難解な書き方をするのかと
    フーコーに聞いたところ、
    フランスで認められるためには
    理解不可能な部分が10%はなければならない
    と答えたというのです。
    驚いたサールがのちにブルデューにこの話をしたところ、
    「10%ではだめで、少なくともその二倍、
    20%は、理解不可能な部分がなければ」
    と語ったそうです …… [p23]

アメリカの物理学者アラン・ソーカルに聞いたなら、
「20%ではだめで、少なくともその二倍、
40%は、理解不可能な部分がなければ」
と語ったのかもしれない。

いっそのこと、100%理解不可能でもいい。



    …… 私が好きなジャズの世界では、
    たとえジャズを好きになったきっかけが
    ビル・エヴァンスだったとしても、
    ある時を境に「ビル・エヴァンスが好きだ」
    とは言いづらくなってきます。
    ビル・エヴァンスは素晴らしいピアニストですが、
    あまりにメジャーすぎて、
    いまさらそれを好きだというのが、
    なんだか恥ずかしくなってくるからです。

    ところがジャズファンとして
    それなりに年季が入ってくると、
    「ビル・エヴァンスは逆にいちばんいいよね!」
    と言ったりします。
    まずはじめに、あまりにメジャーすぎるものが
    好きだということが、
    だんだん恥ずかしくなってくる段階があります。
    「よくわかってない素人」だと
    思われる危険性があるのです。
    でも、その次の段階に進むと、
    自分の位置が切り下げられる心配をすることなく、
    のびのびと「ベタなもの」の価値を
    宣言することができるようになります。
    自分がどのポジションにいるかに従って、
    それは「恥ずかしくて言えない」ようなものなのか、
    それとも「逆にいい」と言っても
    大丈夫なものなのかを、瞬時に、反射的に、
    身体的に把握する感覚。
    それがブルデューのいう
    「実践感覚」(のひとつ)です。[p57-58]

例えば、みんなが観ているジブリの映画の話をしても、
少しも、分かってないと思われる危険性はないと思うけれど。
何を素材にして語るか、ではなくて、
素材についての何を語るか、で分かってなさが決まるもの。

僕には、むしろ、インテリの実践感覚のほうが恥ずかしい。



   

    When I say nothing, I say everything
    Yeah, when I say nothing, I say everything

    ―― Lazaretto/Jack White
    ―― Jack White 作詞作曲、2014、Third Man Records



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テーマ:哲学/倫理学 - ジャンル:学問・文化・芸術

  1. 2021年02月19日 00:00 |
  2. 自分らしさ
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 2/x


    まずはハビトゥスから説明しましょう。
    ハビトゥスはラテン語で、
    英語のhabit やフランス語のhabitude
    (ともに習慣、くせの意)の語源です。
    ブルデュー理論におけるハビトゥスとは、
    簡単に言うと「傾向性」「性向」です。
    私たちの行為や価値判断には傾向性が存在し、
    私たちはその傾向性に動かされて
    あるものを好きになったり
    嫌いになったりするというのです。
    演歌ではなくジャズを、
    フットサルではなく散歩を好む私には、
    それらを好むハビトゥスがあることになります。[p31]

    …… ハビトゥスとは私たちの評価や行動の
    さまざまな傾向性のことであり、
    同時にそれらを生み出す原理のことです。
    また、それは一回性のものではなく持続性があり、
    異なる分野においても
    同じ傾向を示す(移調可能)と言っている …… [p32]
    …… ハビトゥスは心理学的な概念ではありません。
    それはむしろ身体的なもので、
    社会的な行為のレベルで出現するものです。

    『ディスタンクシオン』においては、
    ハビトゥスは非常に深いレベルで
    私たちの嗜好や行動を方向づける
    「身体化された必然」であると書かれています。
    つまり私たちは、意図することなく
    自然に、無意識に、反射的に、
    ある選択や評価をしているというわけです。[p32]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版



分かったような、分からないような。
的外れかもしれないけれど、差し当たって、
僕が思いついたことを書くのなら、

僕には、やることなすこと気に入らない、って人がいる。
なぜ、何かにつけて、予想に違(たが)わず、ことごとく、
僕の嫌いなことばかりをするのだろう。

僕が嫌いな人なら、さらに嫌いにさせるような、
僕に念を押させる行為を選択してきて、
関われば関わるほど、もっと嫌いに傾かせる。

細心の注意で、さらなる一撃を加えてきて、
抜かりなく、改めて嫌いだと確認させる。
そこには、必ず、何らかの調和がある。



    200220f.jpg



やることなすことの、ばらばらに思える行為でも、
同じハビトゥスに由来する行為なら、
すべてが一つの共通項によって統合される。

身体に深く根を張り、対象を直感的、統合的に捉え、
無自覚、無意識のうちに起こる脳内のプロセス。
理性や、知性との違いを強調して言えば、

ハビトゥスは、感性、ってことだろうか。



    

    Spider got with legs and I got two, A guiter got six string well
    What about you what do you got? What did you get for free?

    ―― Fly Farm Blues/Jack White
    ―― Jack White 作詞作曲、2009、Third Man Records



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  1. 2021年02月18日 00:00 |
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ハビトゥス ―― 100分de名著、ブルデュー「ディスタンクシオン」 1/x


>そして、その音楽が特別であるという転倒は、
>その音楽を選んだ自分も、特別な人になる。
>たまたま、偶然に生まれてきた偶有の自分から、
>自分という、単独で、特別な人に引き上がってくる。

そんなふうに、特別な自分になれたはずなのに、
今日も、ホワイト・ストライプスを貼りつけて、
転倒、とか、偶有、とか、引き上がる、なんて書き連ねれば、
僕は、そういう人なんだ、って類型に収まってしまう。

例えば、ちぐはぐで、ばらばらな感じの人がいても、
ちぐはぐで、ばらばらな人なんだ、っていう、
それはそれで、一つの類型として回収されるもの。
掴(つか)みどころのない人、なんて言われながらでも。



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>数字やファクトがあり、その上にロジックを積むことを、
>知性、知的な作法、知的な行動様式とするのなら、
パターンに収めたい、法則を見つけたい、っていうテイスト、
それ自体が、知的な習慣や態度や性向なのだろう。



    ブルデューは、私たちの行為だけでなく、
    態度や能力、主観的な判断や評価、
    無意識の感覚や身体所作までも、
    社会や歴史によって規定され、
    構築されたものとして捉えます。
    それが彼にとっての「人間」の本質なのです。
    この人間の本質を描くために
    ブルデューが導入したのが、
    「ハビトゥス」「界」「文化資本」
    という独自の概念です。[p30]

    ―― 100分de名著、2020年12月、ブルデュー、ディスタンクシオン
    ―― 岸政彦 著、2020、NHK出版

「ハビトゥス」に進もう。



    

    Take back what you said little girl
    And while you're at it take yourself back too

    ―― My Doorbell/The White Stripes
    ―― Jack White 作詞作曲、2005、V2 Records



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  1. 2021年02月17日 00:00 |
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